フォントで「ポップ体」が選ばれる理由と、選んではいけない理由
フォント選びはデザインにおいて重要なポイントになります。
フォントには適材適所があり、見た目だけでなく可読性や雰囲気など、様々な要素を考慮しなければなりません。
今回はそんなフォント選びにおいて、「やってしまいがち」なことに関するトピックです。
「HG創英角ポップ体」の持つ雰囲気と罠
有名な「HG創英角ポップ体」という、手軽にポップさを演出できる昔ながらのフォントがあります。
おそらくほとんどの人が街中やお店などで目にしたことがあるはずで、それぐらい多くの人々に選ばれているフォントです。
しかし、プロのデザイン業界ではこのフォントはほとんど見向きもされません。
HG創英角ポップ体はもともと、スーパーなどの小売店で使われるPOPでの利用を想定して制作された、親しみやすくインパクトのあるフォントです。
そのため、どこか「大セール中!」や「大特価!」といった安売り系のワードが似合うデザインになっている印象を受けます。
これを重大事項の発表や、厳重な注意が必要な個所で使ってしまうと、緊張感や緊急性を醸し出すことはできず、たちまちくだけた雰囲気になってしまうのです。
「注意!」や「危険!」といったワードに用いても、楽しげでコミカルな印象を与えかねません。
ではカジュアルでポップな雰囲気のデザインであれば、利用に適しているのでしょうか?
一見すると雰囲気はマッチしているのですが、広告などをプロに依頼した際にこのデザインが返ってきたら、そのデザイナーの腕を疑うでしょう。
基本的にHG創英角ポップ体は、文字一つ一つのインパクトを重視しているためか、全体のバランスが良いとは言えません。
スーパーのPOPをイメージしているだけあって、どことなく太いマーカーで書かれたような手作り感が漂います。
簡単に言えば、作品そのものを「安っぽく」してしまうのです。
なぜポップ体が多くの人に選ばれるのか
一つ誤解しないでいただきたいのは、HG創英角ポップ体は悪いフォントだと主張したいわけではありません。
ただ、HG創英角ポップ体は非常にクセが強く、作品の雰囲気をまるまる壊しかねない要素を孕んでいるのです。
そんな扱いが難しいはずのHG創英角ポップ体が、なぜ多くの人に選ばれているのでしょうか。
この理由は一つではありません。
- 古くからMicrosoft Officeにバンドルされている
- 手軽に特別感を演出できる
- 非デザイナーによるお手製
Microsoft Office の定番フォントだったことが、HG創英角ポップ体が多く使われるようになった最大の要因で間違いないでしょう。
資料や印刷物などを自作する際、明朝体やゴシック体では味気ないので、ついついHG創英角ポップ体を選んでしまう…といったパターンです。
加えて、人は見慣れたものに安心感を覚えるものです。
日本人はこのフォントを見慣れており、かつインパクトがあるため、フォント一覧にこのフォントが出てきたらつい選んでしまうわけですね。
社内向けの資料などであれば、内輪の話なのでそこまでこだわる必要はないかもしれません。
しかし「伝わる」ものをデザインすることは、どんな場面においても重要です。
雰囲気や内容に適したフォントを選べることは、説得力やプレゼン力の向上にもつながることでしょう。
ではどんなフォントを選べばいいのか
冒頭でも言いましたが、フォントには適材適所があるので、目的や雰囲気などを考慮してしっかり考える必要があります。
現在では高品質なフリーフォントの数が増えてきたことにより、無料での選択肢も非常に多くなってきております。
(フォント製作者の皆様には感謝です!)
まずは少し調べてみて、自分好みのフォントがあるか確認しましょう。
また、入手したフォントはライセンスを確認し、許可された利用範囲を守るよう心がけましょう。
もし、ぱっと見で気に入ったフォントが見つかっても、容易に採用してはいけません。
説明書きなどの文章には可読性の高いゴシック体、目立たせたい見出しなどにはデザインフォントなど、メリハリつけて適切なフォントを選ぶようにしましょう。
最後に
フォント選びはデザインの一環であり、プロであっても容易ではありません。
実際、チラシやパンフレットなどを作成する際は、フォントだけで何パターンも作成する場合があります。
デザインは引き出しの多さが正解への近道となります。
普段から身の回りにある「デザインされたもの」に目を向けて、適したフォントを見極められる目を養っていきたいところです。